駐車場で起きた交通事故の過失割合
1 駐車場で起きた交通事故の過失割合は50:50になりやすい?
結論から申し上げますと、必ずしも50:50になることが多いわけではありません。
駐車場の状況(駐車区画や通路の広さなど)、四輪車同士の事故であるのか、歩行者と四輪車との事故であるのかなどによっても、過失割合は異なってきます。
そのため、駐車場内で起きた事故だからといって、過失割合が50:50になりやすいわけではないということになります。
2 駐車場で起きた交通事故の過失割合の決め方
では、駐車場内で起きた交通事故の過失割合はどのように決められるのでしょうか。
以下、説明します。
※「駐車場事故の法律実務~過失相殺・駐車場管理者の責任~(学陽書房、2017年)」を参考に説明していきます。
⑴ 四輪車の動きの分類
駐車場における四輪車の動きは下記のように分類できます。
- ① 駐車区画進入車:駐車区画へ進入する四輪車
- ② 駐車区画退出車:駐車区画から退出する四輪車
- ③ 駐車区画切返車:駐車区画の進入・退出時に切り返しをしている四輪車
- ④ 駐車区画停止車:駐車区画に停止している四輪車
- ⑤ 通行部分進行車:通行部分を進行している四輪車
- ⑥ 通行部分停止車:通行部分に停止している四輪車
⑵ ⑤ 通行部分進行車の過失について
車が通行している通路が道路交通法(以下、「道交法」といいます。)上における「道路」(道交法2条1項1号)にあたるか否かにかかわらず、速度超過(道交法22条)、前方不注視(同70条参照)、一時停止(同43条)、ないし徐行義務違反(同42条)、車間距離不保持(同26条)等の定型的な注意義務違反が問題になります。
また、独自の注意義務として、駐車場は、その内部に駐車区画を設けた施設であり、四輪車が駐車場内の通行部分と駐車区画を出入りすることは当然に予定されていることから、通行部分進行車については、一般の道路を進行するときよりも高度に前方注意義務や徐行義務が要求されることとなります。
なぜなら、通行部分進行車には、四輪車が通行部分から駐車区画に進入することや、その逆もあり得ることを予見し、そのような車両と衝突しないように運転する義務(予見可能性を前提とした結果回避義務)があると考えられているからです。
⑶ ① 駐車区画進入車の過失について
駐車区画へ進入する四輪車については、通行部分における他の車両の動静を注視し、それが接近してくることを予見し、そのような車両に衝突しないように運転する義務(予見可能性を前提とした結果回避義務違反)を負うものと考えられています。
これは、道交法の適用のない駐車場であっても、通行慣行として通行規制(「車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨げるおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入すらための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない」(道交法25条の2第1項))に従うべきことが期待されているからです。
⑷ ② 駐車区画退出車の過失について
駐車区画退出車は、通行部分の十分な安全を確認して、衝突しないことが確実になるまで退出しないことによって、事故を回避できると考えられます。
そのため、通行部分進行車と比べてより重い注意義務を負うと考えられています。
⑸ 過失割合の決め方
交通事故の過失割合について参考とされることが多い実務本としては、別冊判例タイムズNo.38というものがあります。
この本の第7章に、「駐車場内の事故」の過失割合が定められています。
この本は、おおむね上記の分類にしたがって、それぞれの事故類型について基本となる過失割合や、過失を増減する修正要素を定めています。
この本には、「大型商業施設の駐車場など、収容台数の多い駐車場を対象」と記載されていますが、実務の世界では、コンビニの駐車場のような比較的小さな駐車場内の事故においても、この本を参考にして過失割合が決められることが多いです。
この本に載ってない事故類型については、事故態様が類似した裁判例などを参考に過失割合を決めることもあります。
3 駐車場の管理人や店舗に責任はないのか
駐車場内で発生した車両同士の交通事故、車対人の交通事故については、基本的には、駐車場の管理者である管理人や店舗には責任はないと考えられます。
⑴ 賠償責任が発生する場合
ただし、駐車場は「土地の工作物」(民法717条)ですので、その「設置又は保存」に「瑕疵」があることによって「他人」に損害が生じた場合には、その工作物の「占有者」は損害賠償責任を負います。
しかし、「占有者」が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、責任を免れます。
その場合には、「所有者」が賠償責任を負うことになります(民法717条1項ただし書き)。
⑵ 「占有者」とは
駐車場管理者の責任を問う場合は、「当該駐車場を直接的、具体的に支配し、損害の発生を防止する立場にある者が誰か」という観点から判断されます。
⑶ 「瑕疵」とは
「瑕疵」(民法717条)とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性を欠いていることをいうと解釈されています。
この判断は、当該工作物の「構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき」(最判昭和53年7月4日)民集32巻5号809頁)ものとされています。
工作物責任と交通事故の損害賠償は、不法行為責任という類型では共通しますが、種類が違いますので注意が必要です。
4 駐車場事故の過失割合に納得がいかない場合
相手方より、過失割合について納得がいかない提案をされた場合には、証拠を用意して交渉していくほかありません。
例えば、防犯カメラやドライブレコーダーの映像などを入手して、自己に有利な部分がないかを検証する必要があります。
駐車場内の事故は、人の出入り、車の出入りが当然に予想されるところであるため、たとえ停止していたとしても、必ずしも過失が0%になるとは限りません。
過失割合の交渉については、専門的、実務的な知識と経験が必要になってきますので、お困りの際は、当法人までご相談ください。
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