交通死亡事故の慰謝料に関して-加害者が払った香典は損益相殺の対象になる?
1 損益相殺について
損益相殺とは、交通事故によって、被害者の方が損害を受けるとともに利益を得た場合、その利益を損害から差し引くことを意味します。
たとえば、交通事故の被害に遭うと、ご自身の加入されている保険により保険金が支払われる事があります。
この場合の保険金が利益にあたり、損益相殺の対象となるのではないか、との問題が出てきます。
被害者の方の感情からすれば、なかなか納得のできないことだとは思いますが、法律上は、損益相殺が行われています。
2 香典と損益相殺
交通事故により被害者が亡くなった場合、通常は、葬儀が執り行われます。
その際、葬儀の参列者から香典が交付されることがあります。
この香典は損益相殺の対象になるのかが問題となります。
3 一般の参列者からの香典は損害から控除されない
この点、加害者以外の一般の参列者からの香典は、損害から控除されないと考えられています。
香典は、一般的に社会的儀礼として交付されるものですし、喪主に対する贈与とも考えられていることがその理由であると考えられます。
その代わり、香典返しは損害とはならないと考えられています。
香典返しは、香典と同じく社会的儀礼として行われるものであり、金額的にも香典の範囲内で香典返しを行うことが通常であることが理由とされています。
4 加害者が交付する香典と損害からの控除
一方、加害者が交付した香典は、後になって、加害者が贈与ではなく損害賠償金の内払いであるとして損益相殺を主張してくる場合があります。
加害者が交付した香典については、損益相殺の対象となるか否かというよりも損害の内払であるか否かという観点から判断するのが適切だと思います。
裁判例においても、同様に考えているものがあります。
裁判例には、控除の対象としたもの、控除の対象としなかったもの、一部のみ控除の対象としたものがあります。
損益相殺の対象としたものには、香典について、葬儀費用あるいは精神的損害に対する慰謝料の性質を有するものであることを理由としたものがあります。
損益相殺の対象としなかったものには、端的に香典は損益相殺の対象とはならないとしているものがあります。
一部のみ控除の対象としたものには、香典としての相当性を問題とし、香典としての相当性を超えるものについては、損害の内払であると判断しているものがあります。
同判決では、加害者から被害者遺族に支払われた香典100万円のうち、香典としての相当性を超える70万円については損益相殺の対象となると判断しています。
どちらかといえば、控除の対象としなかった裁判例(または、一部のみ損益相殺の対象とした裁判例)が多く、30万円程度であれば、香典として相当性のあるものと判断するのが裁判所の傾向といえます。
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