会社経営者の役員報酬の基礎収入について
1 経営者が交通事故に遭った場合の休業損害
休業損害は、通常、事故前の収入額の日額に休業日数を掛けて、算定されます。
給与所得者の場合、算定基準となる収入額は、一般的に、事故前3か月の平均給与や年間給与を基礎とする方法が採られており、その額は、比較的、把握しやすいといえます。
他方、会社経営者や取締役等の場合、その収入は、雇用契約に基づき発生する給与ではなく、委任契約に基づく役員報酬となります。
役員報酬の性質は、労務提供の対価である給与とは異なり、労務提供の対価としての部分に加えて、利益配当の実質をもつ部分とが併存しているのが一般的です。
利益配当に相当する部分は、役員の地位にある限り、休業しても支払われるものですから、就労不能=役員報酬の喪失となるわけではありません。
そのため、裁判実務では、労務提供の対価部分については、休業損害として認められますが、利益配当の実質をもつ部分については、休業損害として認められないという傾向にあります。
問題は、労務対価部分と利益配当部分との線引きが、難しい点です。
一般的には、当該役員の地位(代表取締役か、平取締役か、名目的取締役か、監査役か等)、職務内容(従事した業務の内容、専門職か、現場作業か、肉体労働か等)、他の役員や従業員の給与との比較、会社の規模等、様々な事情を総合考慮して、労務提供の対価部分が全体の何割を占めるかについて判断します。
例えば、従業員数がゼロであったり、数人程度等、会社の規模が小さい場合には、会社の売上は、経営者の労務に依存していると考えられるため、会社経営者の労務対価部分の割合は大きくなるでしょう。
2 サラリーマン役員の場合
また、会社役員といっても、サラリーマン役員と呼ばれるように、実質的には従業員とまったく同様に働いているケースもあります。
このような場合は、給与所得者と同様の扱いがされるべきといえます。
裁判例でも、特殊車両の設計・製作技術者として高度な専門的能力を有していたこと、会社には他に、当該役員の労務を代替できる従業員がおらず、専ら当該役員が実務を担当していたことを考慮して、役員報酬全額を労務提供の対価とみて、事故前3年間の平均年収を基礎収入とした例があります(大阪地判H13.10.11)。
3 非常勤の役員の場合
他方、社外監査役等、常勤していない取締役は、通常、会社に対して労務を提供することはほとんどありません。
そうであれば、労務対価部分はほぼゼロとなります。
4 会社経営者が個人事業主としての実態をもつ場合
さらに、会社経営者であれば、会社役員というより、個人事業主としての実態をもつケースもあります。
この場合は、事業取得者としての収入を基礎とすべきでしょう。
裁判例でも、会社の代表取締役につき、会社が同族会社であって、その経営は、実質的に本人のみが行っていることから、役員個人と会社との経済的一体性を認め、事故前3年間の平均値である会社の営業利益と固定費を合算した金額を基礎収入として、休業損害を認めた例があります(大阪地判H20.6.30)。
このように、会社経営者の休業損害の算定方法は、非常に複雑で、弁護士法人心 名古屋法律事務所でもよくご相談をいただいております。
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