もらい事故で過失がない場合の示談交渉
1 もらい事故とは
もらい事故とは,一般的に,被害者にまったく落ち度がなく,被害者と加害者の過失割合が0:10の事故をいうことが多いようです。
2 もらい事故のよくある類型
もらい事故の典型例は,信号待ちで停止中に追突されるケースです。
他にも,青信号で交差点に進入した際,信号無視をして交差点に進入した車と衝突したケースや,見通しのよい道路を直進中,反対車線を走行中の対向車がセンターラインをオーバーして正面衝突したケースも,通常,過失割合は0:10です。
3 もらい事故では保険会社に示談代行してもらえない?
自分の過失が0であるもらい事故に遭うと,被害者が加入している保険会社に示談代行してもらうことができません。
保険会社が被保険者である事故の当事者の示談交渉を代行するためには,被保険者にも過失があって,保険会社が事故の相手方に保険金支払い義務を負担していることが必要です。
保険会社に保険金支払い義務がないにもかかわらず,被保険者の示談交渉を代行することは,弁護士でない者による法律事務の取扱い等を禁止している法律(弁護士法72条)に違反する行為として禁じられているからです。
例えば,自分の過失と相手の過失が2:8の事故であれば,相手の損害(車の修理費等)の2割相当額について,相手に損害賠償しなければならないので,多くは,自分の保険を使います。
そうすると,自分の保険会社が相手方に保険金支払い義務を負担することとなり,保険会社が当事者のような立場に立つため,相手方との示談交渉を代行することが可能になると考えられます。
しかし,被害者の過失がゼロのもらい事故の場合,被害者を被保険者とする保険会社が保険金支払い義務を負担することはないため,被害者のために示談交渉を代行することができないのです。
4 もらい事故の示談交渉をどうすべきか?
そこで,自分の過失割合が0のもらい事故に遭った被害者は,自分で加害者と示談交渉をすることになります。
一方,過失のある加害者は,通常,自分が加入している任意保険を使うため,被害者は,相手の任意保険会社の担当者と交渉することになります。
事故の被害者の多くは,事故に遭った経験がなく,示談交渉の方法や示談金の相場等,分からないことだらけですが,保健会社の担当者は,示談交渉に馴れています。
任意保険会社は,加害者側の立場で交渉するため,通常,保険金支払い額をできるだけ抑えようします。
もらい事故に遭った被害者の方は,加害者の保険会社の言い分や示談案に納得できない場合はもちろん,示談案が適切なのかどうかが分からない場合も,加害者の保険会社任せにしないで,交通事故に強い弁護士に加害者側との示談交渉を依頼することを検討するとよいでしょう。
自分が加入している保険に弁護士費用特約が付保されている場合,被害者は,保険金額を超えない限り,弁護士費用を自己負担することなく,弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約は,自動車事故に遭った被害者が,怪我や車等の損害について加害者側に賠償請求するにあたって,弁護士に相談した場合の法律相談料や,弁護士に事件の処理を依頼した場合の弁護士報酬・実費を補償する特約です。
特約の内容は,保険会社によって少しずつ異なりますが,通常,弁護士費用特約を使っても,等級が下がったり,保険料が上がったりすることはありません。
また,弁護士費用特約は,記名被保険者本人,同居の親族,配偶者,未婚の子,契約車への搭乗者等,幅広く利用することができます。
5 もらい事故について弁護士に示談交渉を依頼した場合のメリット
交通事故の被害者が,加害者側との示談交渉を弁護士に依頼する最大のメリットは,賠償額が増額される可能性があることです。
特に増額の可能性が高い損害項目は,傷害慰謝料,後遺障害慰謝料,死亡慰謝料等,精神的苦痛に対する損害賠償額です。
加害者の保険会社は,通常,自賠責保険会社が用いる計算基準を参考にしながら,社内の任意基準によって慰謝料額を算出します。
他方,弁護士は,裁判所が用いる計算基準を用いて算出します。
両者を比較すると,裁判所が用いる計算基準による額のほうが高くなるケースが非常に多いのです。
加害者の保険会社から示談案を提示されたら,示談案が適切なのか,増額の余地があるのか等をチェックするために,交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。